さち先生の種まきブログ
「相続分の譲渡」という方法をご存知ですか?
2016.06.02
1 遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります
「私(相続人「K」さん)の祖父は、30年前に亡くなり、この度、私の母(祖父の娘)も亡くなりました。
親族同士の仲が良くなく、祖父が亡くなったときから、きちんとした相続手続がなされないままでした。
また、先祖代々の土地の管理費用なども、私が全部負担しています。祖父の相続手続も含めて、もめないように、きちんと遺産分割協議書を作成したいのですが・・・」
このようなご相談をKさんからいただき、相続手続や遺産分割協議書の作成に関して、当事務所にご相談に来られました。
遺産分割協議は、相続人「全員」で行う必要があり、全員で行わない遺産分割協議は「無効」となってしまいます。
そのため、遺産分割協議をするためには、最初に「誰が相続人」であるかを確認する必要があります。
ちなみに、遺産分割協議は、被相続人が遺言で禁じた場合を除き、「いつでも」行うことができますし(民法第907条第1項)、
いったん成立した遺産分割協議の全部または一部を合意により解除して、改めて、遺産分割協議を行うこともできます。
さて、Kさんの祖父の相続手続については、生前、Kさんの母親が、相続人となっており、
その他に、Kさんの母親の姉であるSさんも、相続人となっていました。
そして、Kさんは、母親の相続手続に当たって、祖父に関する母親の相続分も相続することになるので、
祖父の相続と母の相続を二重に相続することになりました。
ところで、母親の相続手続のために、戸籍を収集して相続人の調査を進めていると、意外な事実が判明しました。
当初、Kさんからは、Kさんに兄弟はいないと聞いていました。
しかし、Kさんの母親には、前の夫との間に子どもがいて、Kさんには、兄のBさんがいることが判明したのです。
被相続人の子は相続人となるので(民法第887条第1項)、Kさんの兄であるBさんも、母親の相続人となります。
そして、兄のBさんは、母親が生前相続していた祖父の相続分についても、相続することになるのです。
そのため、祖父の相続分については、Kさん、Sさん、Bさんの間で遺産分割協議をし、
母親の相続分については、Kさん、Bさんとの間で遺産分割協議をすることになったのです。
2 「相続分の譲渡」で相続紛争回避
母親の相続分については、幸いKさんとBさんの間で、誰が何を相続するのかについて、遺産分割協議がまとまりました。
ただ、Bさんは、祖父の相続分について、相続争いに巻き込まれたくないと考え、相続手続に関与したくないという意向を持っていました。
ここで、相続人が遺産分割協議や相続争いに関わりたくない場合には、「相続の放棄」をすることが考えられます。
しかし、相続の放棄は、原則として、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から「3か月以内」に、
家庭裁判所にその旨を申述しなければなりませんが(民法第915条第1項、第938条)、本件の相続手続では、すでに3か月以上が経過していました。
そこで、Bさんは、祖父の相続についての相続分を、Kさんに譲渡することにしました。
これを「相続分の譲渡」といって、相続の放棄のような期間の定めはなく、
遺産分割までの間であれば、自己の相続分を第三者(相続人を含む)に譲渡することができるのです(民法第905条第1項参照)。
ですので、もし相続放棄ができない場合であっても、相続争いに巻き込まれないために、「相続分の譲渡」をするのも1つの手段といえます。
以上のように、相続手続に関しては、相続人調査の際、思わぬ相続人の存在が判明する可能性がありますので、
遺産分割協議をするに当たっては、しっかりと事前に相続人調査をすることが大切です。
そして、二重相続が発生してしまうと、相続人が増えて、(各相続人の様々な思惑や考えなども相まって)相続手続が複雑になることもありますので、
相続手続や遺産分割協議は、早目に対応されることをお勧めします。
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